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和風住宅の素晴らしさ

1.住宅の歴史

住宅は、気候風土と文化を反映して、その国らしい住まい方、もてなし方をあらわすものです。

歴史を遡って、平安時代の貴族の住宅である寝殿造(しんでんづくり)や、室町時代以降の武士の広間として確立した書院造(しょいんづくり)は当時の超高級住宅でした。

その後、茶室・数寄屋(すきや)の文化を背景として、近世を通じてさまざまなバリエーションを持つ接客空間が生み出され、その形式は町人の富裕層の住宅にも大きな影響を与えました。

明治にいたっては欧米の文化の洗礼を受け、政財界の要人や旧華族の住宅では洋館と和館をあわせ持つようになります。

大正時代には住宅改善運動を通していわゆる中流住宅も洋風化していこうという動きがひろがりました。しかし、それも昭和になると収束し、新しい技術を取り入れながら、ひろく和洋折衷化が進んでいきました。

このように、日本の住宅は各々の時代の文脈の中にあって大きく変化してきたのです。

2.現代の「和風」のスタイル

「和風」は「洋風」があって初めてうまれた言葉です。
近代になって新しい様式が入ってきたことが、日本的であるとはどういうことだろう、と考える契機になったと言えるでしょう。

近年、建築史上では「近代和風」というジャンルもできています。 また、昭和初期には、世界的な近代建築運動をくぐり抜けて新しい表現を求めた建築家 の手によって、「近代数寄屋(すきや)」が生まれました。
一方で、昭和以降に日本の伝統的な建築技術に関する調査や研究の成果が蓄積されてきました。 これは、新しいスタイルの模索のあとに、古典に対する理解が深まるという振り子のような現象といえるのではないかと思います。
最近では社会構造や住習慣の変化に伴い、伝統的な和室に暮らす日本人も少なくなりました。 このような現代にあっても、和風の落ち着きや洗練された雰囲気を求める人が増えつつあります。 そのようなニーズにこたえる住宅のスタイルは、最近では「和モダン」と呼ばれています。

3.洋風住宅か和風住宅か?

注文住宅をつくるなら、洋風と和風どちらがいいかとお考えになったことはありませんか? 一度おおまかに双方を比較してみましょう。

洋風住宅

和風住宅

室内
  • 高い天井、空間の立体的な構成が可能。
  • 天井高さは一般的には2400mm程度。部屋が広くなるほど高くなり、格調高くなる。
  • 内装材は、板、カーペット、クロス、石・タイル・金属など多彩。
  • 内装材は、木材、畳、土塗壁が主流(素材に調湿の性質があり体にやさしい)。
  • 置き家具、カーテン、絵画などで雰囲気が決まる。
  • 季節によって室礼(しつらい)(建具、簾、屏風など)を変えることができる。
  • 大きな窓で明るい光が差し込む。
  • 障子で柔らかい拡散光がひろがる。
外観
  • 独創的な外観にすることができる。
  • 軒先を低くおさえた印象の外観になる。
  • 外装の素材を自由に選べる。
  • 屋根は瓦・板金葺、壁は土塗または土塗風。(窓は防火性能が求められることが多く、洋風とあまりかわらない。)
  • スタイルを優先すると、必ずしも軒を出さない(雨漏り、外壁の汚れや遮熱に対する工夫が必要)。
  • 軒が深く出て、夏の強い日射を遮り、太陽の低くなる冬の日差しを室内へ取り込みやすい。
  • 軒が深く出て雨の多い日本の気候に適している。
設備・構造等
  • 気密性が高く、各室で個別の空調管理がしやすい一方、季節を感じにくい。
  • 気密性が低く各室で個別の空調管理がしにくい一方、季節を感じやすい。
  • 断熱や空気循環の最先端技術を取り入れやすい。
  • 設備を目立たないように隠蔽するのにコストがかかりやすい。
  • 窓や庭の配置で空気の循環を図る。
  • 鉄筋コンクリート、鉄骨、木造など、内部空間や立地によりさまざまな構造を採用できる。鉄筋コンクリート、鉄骨の構造部は補修しにくい。
  • 基本は木造、四角い軸組を組んでいく構造。
  • のちの補修や改修工事が比較的容易である。
  • 耐震・耐火の設計を優先して間取りや見えがかりを考えやすい。
  • 耐震・耐火の設計を間取りや見えがかりにあわせる工夫が必要。

ここでいう洋風住宅というのは現代の建築家の手によるインターナショナルなスタイルの建物、先端の技術で環境をコントロールすることも考慮して設計されているものを想定しています。

上の比較表からわかるように、洋風住宅、和風住宅のどちらにも長所と短所があります。 住宅を建てようとお考えの方がどちらを選ばれるかは、各々の好み次第ということになるでしょう。

もっとも、近年の洋風住宅は障子をいれたり、壁に和紙を貼ったり、漆喰を塗ることもあります。他方、近年の和風住宅も畳の部屋が減ってフローリングが多用されています。 このように、昔ほど洋風住宅と和風住宅の境界線を明確に分けることができなくなってきています。

和風住宅の欠点のひとつとしてよく取り上げられるのが、空調を使っていたとしても暑さや寒さを十分にしのげないということです。 洋風住宅は気密性が高いため、空調の効果は非常に高くなります。 一方、和風住宅は日本の季節や風土から生まれたもので、機械的な空調管理や気密性は企図していません。

四季のある日本では、季節によって温度や湿度が大きく変化します。 当社は、そのような環境の変化にあわせて「呼吸する家」を作り続けています。 自然と対立するのでなく、自然と共存しつつ暮らすための家づくりこそが、日本人の織りなす様々な文化を承継し、さらには醸成させていく場所である「家」としてふさわしいのではないでしょうか。

4.安井杢の作る「和風住宅」とは?

現代の住宅では、洋風住宅、和風住宅を問わず、価格や品質が一定した集成材や大量生産による加工製品を多用し、現場の大工は手順に沿ってそれを取り付けるという体制が主流です。

しかし、当社では天然自然の材料を使って人の手で加工するという昔ながらのやり方を続けています。

当社の作る「呼吸する家」では、自然の材料(木材、土、紙)を多く使用します。 木材は、湿度によって膨らんだり縮んだりしますが、その動きを止めてしまうと別のところがひび割れてしまったりします。 したがって、木材の固定方法には昔から大工に伝わるわるやり方があります。

また、反ったり変形することを活かして木材を使う向きを決めます。そんなに高度なテクニックではありませんが、昔からの知恵といえるものです。 建具などは、材料のわずかなクセや環境の影響を見て1~2年かけて調整します。 手間はかかりますが、年月が経つにしたがっていろいろな部分が落ち着いて、木部も壁も風合いが変わっていきます。 その変化も一緒に楽しめるのが和風住宅の良いところだと思うのです。

現代的な技術であるビニールクロス貼りの壁と天井、樹脂シート貼りの造作と建具などはとても便利できれいに仕上がります。 また、外壁のサイディングなども防水仕様が合理的で耐候性にも優れています。 もちろん当社でも用途に合わせて使わせていただいています。 しかし、そういうものだけでできた住宅は、完成した時が最高の状態なのです。

住宅の設計はお施主様のその人らしさを引き出したものであるべきです。 竣工後、お施主様の手に引き渡された住宅は、住まい続けていただくうちに、ただ古びていくだけでなく、お施主様のひととなりが醸し出されてきてほしいと思っています。 時間がたつほどにお施主様らしい味が出てくるような、気がつけば折々の季節感が記憶に残るような住宅を、当社はめざしています。

6.まとめ

日本の住宅は、社会の勢力地図の移り変わり、文化の変遷などを背景に、時代とともに大きく変化を遂げてきました。さらに現代の住宅は、洋風化の影響を受けて、快適さや生活しやすさ、経済性を追求して様変わりしてきました。

その結果、「日本人らしさ」を作ってきた「自然と一体となって季節を感じながら住まう家」が少なくなってきました。

日本の文化は、自然や季節との係わり合いの中から生まれてきたものです。日本人らしい感性や思考を守り、それを次代へ引き継いでいくためには、まずその日本人を育てる「場所」としての家を残していくことが大切です。未来の担い手である若い世代も、日本らしい空間を目で見て、体感することを通じて、わたしたちを育んできてくれた歴史と文化への深い理解をえられます。 また、そこから日本文化の新しい可能性が生み出されることが期待できるのではないでしょうか。